研究書に限らず,広い領域で是非講読して欲しいお勧めの本や若干のコメントを紹介していきます。

マーク・ブキャナン『市場は物理法則で動く』白揚社,2015年。


経済学は数学では説けないのか,という素朴な疑問を持つ方は少なくないと思われるが,では経済現象が物理現象だと捉えると説けるだろうか。
私は物理学も数学に包括されるのではないかと感じ,現在の数学ではうまく表現できていないだけではないかとも思う。
数学である以上,定理を求めるのは仕方ないとしても,身体のサイズは測れても関節のメカニズムを捨象しては困るとも思う。経済を物理現象として捉えることは経済学の可能性を拓くと思う。

(◆南海放送ラジオ,明屋書店プレゼンツ「あなたの本棚」紹介者/ブックマスター:近廣昌志,2017年12月17日放送で紹介)

夏目漱石『私の個人主義』講談社,1978年。


漱石の著作というよりは講演集として編集されたもので,所収される明石での講演「道楽と職業」(明治44年),学習院での講演「私の個人主義」(大正3年)は特にお勧めである。
「道楽と職業」では,価値論,もっといえば労働価値説の側面が備わっており,まるで経済学原論でも読んでいるかのようである。
現在の限界効用仮説に基づく分析からみれば古臭いかもしれないが,生きていくというよりは就職するといった今日に生きる私たちにはむしろ新鮮に映るかもしれない。
私には漱石先生が他人の個を否定しなければ自身の個を守れないのなら残念な人間だと,そう仰りたいように感じる。

(◆南海放送ラジオ,明屋書店プレゼンツ「あなたの本棚」紹介者/ブックマスター:近廣昌志,2017年11月18日放送で紹介)

荒川三喜夫『ピアノのムシ』芳文社,2013年-。


楽器そのものに興味がないのになぜその楽器を弾こうとするのか,私は不思議で仕方がない。
楽器のメカニズムや個性を知ることで,弾き方も,弾きたい曲も,書きたい曲も変わるかもしれない。ピアノは調律だけでなく調整も整音も大事なのだが,調律師は生き方そのものが仕事に現れる。
世間的に言うと態度の良くない主人公の調律師を描いたコミックであるが,世間の方が可笑しいこともあるわけで,建前と誤認にまみれた世間と主人公との関わりが魅力的に描かれている。

(◆南海放送ラジオ,明屋書店プレゼンツ「あなたの本棚」紹介者/ブックマスター:近廣昌志,2017年10月15日放送で紹介)

アレックス・カー『犬と鬼』講談社,2002年。


あなたが愛媛大学の学生なら,ご自宅から大学までの通学で気分が悪くならないなら,あなたの感覚は残念なものに違いありません。そう,町が汚いのです。
海が消波ブロックで埋め尽くされ,山がコンクリートで「補強」され,電信柱と電線が景色を台無しにしていく,それに違和感を覚えないとしたらとてもじゃないですが成熟国の人とは言えません。
私は日本の公共事業の品のなさは,日本の歯科治療と似ていると思う。未だに保険治療で銀歯を多用する国は,いったい何を維持しようとしているのかと。

(◆南海放送ラジオ,明屋書店プレゼンツ「あなたの本棚」紹介者/ブックマスター:近廣昌志,2017年9月17日放送で紹介)

佐々木融『弱い日本の強い円』日本経済新聞出版社,2011年。


国力を定義して捉えようとすると忍耐と強引さを必要とするが,強い国の貨幣が強くなることは必然ではない。ドル円レートはこの40年間,趨勢的に円がドルに対して強くなってきたが,外為レートは巷で浸透している常識で説明するものではなく,外為マーケットの取引という現実そのものが動かしている。現在は定義的に金(ゴールド)とのリンケージがない貨幣システムであるから,どの国の貨幣も宙に浮いた相対的な関係にある。難しい理論に興味を持つことも大事だが,現実感覚たっぷりの本書はおススメである。

(◆南海放送ラジオ,明屋書店プレゼンツ「あなたの本棚」紹介者/ブックマスター:近廣昌志,2017年8月20日放送で紹介)

山折哲雄『「ひとり」の哲学』新潮社,2016年。


私には信じられない。著者が80歳半ばになってから「ひとり」に触れるとは。そして,ひとりで学食に行く愛媛大学の学生さんがあまりに少ないことも。確かに「正しさ」は社会的に決まる側面が大きいけれど,他人の意見を聞かなくても答えは出せるし出していい。この著作の最大の皮肉,それは「ひとり」を考えるといいつつ,ひとりで考えていないように映ること。ひとりの素晴らしさを考える良い機会にしてほしい。

(◆南海放送ラジオ,明屋書店プレゼンツ「あなたの本棚」紹介者/ブックマスター:近廣昌志,2017年7月16日放送で紹介)

三品和広『どうする? 日本企業』東洋経済新報社,2011年。


日本製だから素晴らしいというフレーズを,日本企業や日本人が言っていたら恥ずかしい。それは「おもてなし日本一のまち,松山」と自分で空港に看板を掲げるようなものです。大衆に焦点を合わせて生産するという選択が正しい国,それでは造っても造っても創れないのであって,そこに美しさはない。品質の良いH型鉄鋼を造っても,それでどのような建築を仕上げるのだろう。安価に製造できても,フニャフニャな乗り味の自動車には吐き気がする。この残念さは,それらを求める大衆の需要と表裏一体であり,成熟って何だろう,今一度立ち止まって欲しい。

(◆南海放送ラジオ,明屋書店プレゼンツ「あなたの本棚」紹介者/近廣昌志,2017年2月12日放送で紹介)

高根正昭『創造の方法学』講談社(現代新書553),1979年。


清水幾太郎『本はどう読むか』講談社(現代新書297),1972年。


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 国際金融論・金融論の担当として、2012年9月に愛媛大学に赴任しました。

 研究領域については、銀行原理に基づく貨幣供給理論をコアにして、簿記原理から説く金融の世界を構築しています。大学院時代には、市中銀行の行動がマネーストックに与えるメカニズムと影響について研究してきました。

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